GWのはじまり、強風と雨の中、JR山陰本線の特急スーパーおきに乗って、山口県まで遠出しました。
目的は「佐藤健寿展 奇界/世界」が開催している山口県立美術館です。
ちょうど、TBS系列「クレイジージャニー」で南太平洋バヌアツに取材旅行をした回も見ることができたので、ほんの少しだけ予習したつもりになって、折りたたみ傘が強風でひっくり返りそうになるなか、急ぎ足で美術館まで行きました。
ところで、鑑賞してから少し時間が経ちましたが、そんなときに頼りになるのは図録ですね。
本展は佐藤健寿氏のこれまでの写真家としての歩みを辿るような展覧会のため、展示されている作品も日本代表の選手に選ばれるような力強い目を引く写真ばかり。
展覧会の全体像を書くよりは、時間が経っても尚、心に残っている写真をダァーと書いていこうと思います。
『奇界』→「奇景-自然と人間」→解説序文より
心に残っている写真、と言いながら一つ目は写真ではなく文章(※各テーマごとに垂れ幕が設置してあり、そこに紹介文が書いてあった)にとても心が打たれました!!
会場は大きく二つに分かれており、『奇界』と『世界』がありました。
これまでに120カ国以上を訪れて、撮影された写真たち。その旅も一般的な観光地への旅行ではありません。
佐藤健寿氏の好奇心アンテナに引っ掛かった、とても奇妙で中には見続けていると得体の知れない恐れを感じる写真もありました。
まずは『奇界』の展示スペースからで、ここは12のテーマに分けられています。そのテーマごとに解説序文が提示されていて、特に「奇景-自然と人間」の文章にはガツンと肩口に大きなツッコミをもらいました。
一部分だけ引用させて頂きます。図録にも掲載されていますので、全文をお読みになりたい方は是非に図録を手に取ってみてください。装丁も凝っている本になっていますよ。
《地球環境の急激な変化から、共生やSDGsといった言葉が叫ばれて久しいが、その本質は地球の保護ではなく、人類の保護であることは自明である》
奇景テーマごとの紹介文~「佐藤健寿展 奇界/世界」より引用
《おそらく人類はこれまで、自然を「支配」できたことなど一度もなかった》
《人類にできるのはせいぜい、自然の力をほんの少しだけ拝借し、どうにか自然に「保護」してもらう程度のことなのだろう》
どの場所の写真を見ても、とても立ち寄りたくない場所ばかりです。その写真を見る限り、自然の恐ろしさを感じはするものの、地球環境を、自然を守って行かなくては、と強く思わされる写真では正直ありませんでした。
しかし、それぞれのキャプションを読んでじっくりと考えてみると、その自然の猛威の発生原因に人間の様々な活動が影響しているのかもしれないと思いました。
地球は生きているとか、意思があるような言い方をすることがありますが、個人的にですが(本当に個人的にですよ)、あまり使いたくない言い回しなんです。
地球に聞いたことがないので完全に憶測ですが、地球は人類のことなんておそらくは全く考えていないのでは、とこの4つの写真を見ても感じました。
地球は良くも悪くも、すべてを受け止めてくれています。ただし、受け止めたものをどう返すかは地球が決めることです。良いことをすれば、良いことが帰ってくるかと言うと、そんな単純な話しではないところも感じます。
でも、この行動はアウトだろうな、と思うものは誰の中でも共通しているものがあるはずです。それをなるべくしないでおこう、と胸の内で言い聞かせました。
死してなお担がれる 【ファマディアナ】(マダガスカル/2017) 「死ー自然と祭礼」より
二つ目のガツンは、《マダガスカルの農村部で行われている改葬儀式》です。
過去に「クレイジージャーニー」でも放送されたようですが、亡くなって数年後(5年、7年等)に遺体を墓から再び取り出して、神輿のように担いで祝う?祭りのように。
そして遺体の周りの布をきれいに巻き直して再び墓へと埋葬する儀式。3点の写真が展示されていましたが、もうそれだけですっかり驚きました。
火葬が一般化されている今の日本では、なかなか気持ち的に受け入れがたい儀式です。この写真の様子も決してマダガスカル全体で当たり前の光景ではないようです。
葬儀の様式や死後の遺体の取り扱い方などは、一国の中でも随分と違うのでしょうね、本当に。
しかし、死んで数年たって、神輿のように担がれるなんて、死の間際で自分が担がれている様子を想像してしまいそうです。
近しかった人の遺体を担ぎながら、あぁオレも死んでから数年たって、こんな風に持ち上げられるのか~、と思っているのでしょうか。
文化の始まり方 【十字架の丘】(リトアニア/2010) 「習俗ー奇妙と正常」より
それでは、ガツンのパート3です。キャプションから見てみましょう。
1831年、ロシア占領下にあったこの地で若い兵士たちが反乱を起こし、多くの兵士が処刑された。その後、誰かが弔いに十字架を置いたことが起源という。今日では世界中の敬虔なカトリック教徒の集う巡礼地となっている
奇界/世界 展示、図録より引用
説明を読まずに写真だけを見れば、現代アートの屋外型インスタレーションかな、とも思えます。大小様々、形状も様々、素材も様々な十字架の山が築かれています。
おそらく、最初に十字架をおいた誰かは、現在の写真のような形になるとは思っていなかったはずです。
しばらくして、途中の誰かが形をこんな風に整えたらどうだろうかと実行し、またしばらくして別の誰かそれを「十字架の丘」と呼んだのでした、みたいな物語が想像できました。
これを文化と呼んでいいのか分かりませんが、創設者がいて、中興の祖、みたいな人もいたはずです。
末長く続く習俗の一つの例えとして、いつでも誰でも思い立ったときに参加することができる、それを象徴する構造物だと思いました。
まとめ
本当に一部分の特に印象に残った展示について書きました。
最後に気になった点をあげるとしたら、国立民族学博物館所蔵の仮面やお面の作品の展示があったことです。
お面というと島根県では石見神楽の面が有名です。
様々な祭事や儀礼で使われる各国の仮面は、どことなく似ていると感じるものもありました。
モチーフが動物であったり、精霊や妖精のようなものであったりするからでしょうか。
今の時代のコスプレイヤーも、数十年後や数百年後には奇界のひとつになるかもしれません。
現実の自分からいったん離れる行為、それが事務的なものであれ、積極的なものであれ、昔も今も、将来も必要な奇界なのでしょう。そんな風に思いました。
「佐藤健寿展 奇界/世界」について
「佐藤健寿展 奇界/世界」
会場:山口県立美術館
会期:2023年4月14日(金)ー6月11日(日)
以降は群馬県立館林美術館へ巡回します(2023/7/15ー9/18)
山口県立美術館について少々
1979年(昭和54年)に開館した山口県立美術館は、亀山公園に隣接して建てられています。
館内はモザイクタイルのようなデザインの壁が特徴的であったり、荷物用ロッカーも木枠に霞みがかった扉、その中央にロッカー番号がポンと配置されているなど、所々にアートファンを楽しませてくれます。
雨でなければ、周辺ももっと散策してみたかった~。