浜田市世界こども美術館で開催中!染色家「柚木沙弥郞の世界」展へ行って来ました。

柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館美術
広告

柚木さんは99歳の今も、精力的に作品を制作されています。そのエネルギーの源がいったいどこにあるのでしょうか。
本展では長い作家生活を4つのテーマに分けて展示しています。
『染色』『版画』『絵本』『水彩とコラージュ』です。

さっそく、ひとつ目の展示室に進んでいきましょう。

柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館
展示室入り口このロゴもかっこいいですよね。
広告

テーマその1.『染色』

柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館
展示室は若干暗めでした。大きなこいのぼりが印象的。
柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館

全体を通して唯一、写真撮影が可能になっている展示室です。
様々な表現方法で作品を発表している柚木さんですが、その肩書きは染色家とプロフィールには書かれています。
大小、長さや幅も異なる布が室内の壁をぐるりと取り囲んでいます。
何か意味ありげな幾何学模様のテキスタイルから、具象的なテーマ性のある染め作品まで、
柚木さんの染色家の歴史絵巻が一堂に会しているような空間です。

柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館

染め物に対して、ある本で語っているところによると、
制作している布は、あくまでも洋服であったり、着物の帯であったり、たいてい身につけるものに使うために作っていました。
布は素材のひとつであって、観賞するための作品ではないという意識だったのでしょう。
しかし、いつしか柚木さんが制作する布はアートとして認識されるようになります、ご本人の意図するところを超えて。
特に80歳を過ぎてからパリで開催された個展が大きな転機になったようです。
美術に関わる環境は、父親が西洋画家であったことからも小さい頃から周囲にありました。

戦争が終結すると、岡山県倉敷に建つ大原美術館で働き始めます。
そこで出会うのが民藝運動です。
用の美とも言われる、名もなき職人たちが作った手仕事の道具などに美しさを見出す活動です。
展示されている布を見ていると、ここは美術館だという思いがあるため、アート作品として鑑賞している自分がいます。
しかし、柚木さんはどんな思いでこの布の一枚一枚をデザインし、制作していったのか。
あえてアート脳を脇へ寄せて、この布を生活感の中へ放り込んでみましょう。
例えば、バッグの柄にいいかも、とか、カーテンにするのはどうだろう、とか、暮らしの中で使っていることを想像してみるのです。
すると、急に身近なものに感じてきます。
作品への敷居を高くするのも、低くするのもそれを見る私次第なんです。

柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館
どの柄も素敵。お部屋のカーテンにすると贅沢だな~と感じました。

テーマその2.『版画』

柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館
入り口のエレベーターも柚木ワールドに。

柚木さんが本格的に版画を始めたのは60歳を越えてからだそうです。
挑戦した版式も複数あり、今回は以下4つの技法で作られた作品が展示してあります。
・リノカット
・カーボンランダム
・リトグラフ
・モノタイプ

それぞれの技法の説明はぜひ館内にてご覧ください。
制作手順が案内されています。

柚木さんはその技法の特徴を把握したうえで作品のモチーフを選んでいるように思います。
この技法なら、こんなことができるんじゃないだろうか、と試行錯誤しながら制作されたのでしょう。
外国語の新聞か雑誌かに印刷された作品もありました。
肩の力の抜けた、遊び心のある作品でしたが、後半の展示を見て感じたのは、決して思いつきでパパッと制作されたものではないということです。
試しに試した結果が今、目の前に飾られているのだと思いました。

テーマその3.『絵本』

柚木沙美弥郎『ぜつぼうの濁点』
展示室でも紹介してあった『ぜつぼうの濁点』図書館で借りてきました。

版画は60歳から、では絵本は?
答えは70歳を過ぎてからです。絵本を作ろうと思ったは、当時の絵本の中に0歳から3歳までの子どもが親と一緒に楽しめる絵本が少ないと感じたからだそうです。
どうやら、ご自身の子育て時も思い返してのことみたいですが。
子どもの想像力も、親の想像力も刺激するような、そこに生まれる見えない会話のキャッチボール。
子どものためでもあり、親のためでもある絵本。
そんな土台のうえに柚木さんの絵本は作られていったと思います。
展示室にはいくつかの絵本とその原画が展示されています。なかには習作として、一つのページを作るために数パターンも描いていた例が展示されています。
納得できる一枚にたどり着くための努力を感じました。絵を見ながら思ったことですが、いろんな解釈、様々な物語を掻き立てられます。
子どもたちは本のページを開くたびにどんなことを思うのでしょう、柚木さんはきっと子どもの想像力に無限の広がりを信じているのではないでしょうか。
柚木さんの絵本は一つの正解が描かれているのではなく、読むたびに新作になるような絵本に思えてきます。
だから、大人になって読んでも、心に響くものがあるのです。

柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館
柚木沙弥郎さんへメッセージを書こう!コーナー!!子ども達が楽しそうにこいのぼりに色を付けたりしていましたよ。
柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館

テーマその4.『水彩とコラージュ』

最後の展示は少し変化球というか、世界中の子どもたちの絵画と、柚木さんが旅先から買い集めたであろうかわいい雑貨たちが飾ってあります。
乗り物系が多いなあ、と歩いているといきなりアンリ・マティスが出てきたり。
柚木さんが好きなもの、面白いと感じたものに囲まれていて、ほんの少しだけご自宅の雰囲気が味わえます。

もう展示も終わりだというところで、「コラージュの体験をしていきませんか?」とスタッフさんに声をかけられました。
最初の染色コーナーにいるときに上から賑やかな声がするなと思っていたのですが、ここだったのか。
スタッフさんに促されるままに席に着くと手際よく説明を受けて、いざ制作開始です。
黒地の厚紙(ポストカードより少し小さい)に、準備されている様々な色の折り紙を手でちぎって糊で貼り付けていきます。
実際にやってみると、ハサミとか道具を使わずにベリベリと紙をちぎる作業は、思い描く造形を作るのがとても難しいことに気付きます。
隣にいる奥さんは何を作っているのか覗いてみると草むらにたたずむ飼い猫をモチーフにしているようです。
かなり、小さく紙をちぎってはペタペタと貼っています。時間がかかりそう。私は具体的なことを決めないで、思い浮かぶままに貼り付けていきました。
できた作品がコレ、タイトルは「いろんな時間の太陽」。
ほかの家族連れの子供たちに交じって、すっかり真剣になってしまいました。奥さんの作業はまだ終わりそうにありません。

柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館コラージュの体験
左が奥さんの作品、右が私の作品

難しく考えればきりがないけれど、気楽に構えていればスッと体に溶け込んでいくような展覧会でした。
観るだけとも違う、体験するだけとも違う、本当に柚木さんの家に招かれたような気分になりますよ。

展覧会の前後にぜひ読むとさらに楽しめます

柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館チラシと柚木沙弥郞のことば
右の青い本が『柚木沙弥郞のことば』あとは、チラシや入場券など。素敵なデザイン。

『柚木沙弥郞のことば』(柚木沙弥郞・熱田千鶴 著/グラフィック社)

柚木さんが影響を受けた人や物、制作や作品に対しての考え方、などが分かります。
この本の他にも様々な種類の書籍が出版されています。
展覧会を鑑賞する前でも後でも、理解が深まったり、さらなる興味がわくと思います。

『柚木沙弥郎のことば』(柚木沙弥郎)の感想(8レビュー) - ブクログ
『柚木沙弥郎のことば』(柚木沙弥郎) のみんなのレビュー・感想ページです(8レビュー)。作品紹介・あらすじ:いつからはじめたっていいんだよ。僕だって物心ついたのは80歳になってからなんだから。ーー染色家・柚木沙弥郎98歳の今も第一線を走り、年々モダンな民藝、染色作品をつくり続ける柚木沙弥郎。柚木を長年取材しつづける編集...

「柚木沙弥郎の世界」開催概要

柚木沙弥郎の世界at浜田市世界こども美術館

「柚木沙弥郎の世界」開催概要
期間:2022年3月12日(土)~5月8日(日)
場所:浜田市世界こども美術館
島根県浜田市野原町859-1
開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:毎週月曜日(例外あり)

染色はもちろん、版画や民藝にも興味がある方にもぜひおすすめの展覧会です。
子ども美術館で開催もあるのか、説明のカードなどはルビがふってあり、大人から子供まで楽しめます。

柚木沙弥郎の世界 - 浜田市世界こども美術館


しまね暮らし「しまねの美術担当」
アートブロガーの町平亮(マチ ヘイスケ)です。

30代後半から美術にはまり中。
普段はnoteで記事を書いています。
noteはこちら💁‍♀️
町平亮(マチ ヘイスケ)@アートブロガー