読了しました、「しろがねの葉」。
時代小説であり、鉱山採掘の当時の専門用語や植物や道具や薬など、難しい漢字も多用されていますが、語り口のテンポ感はよくスラスラと読み進められました。
銀鉱山という男社会の中で強く生き抜く、女の子から大人の女性へ成長していく物語です、が登場人物としては男子の方が多いです。
あぁ、こんな奴まわりにいるな、とか、自分に似てる?と思わされた人物もいたり。
主人公のウメは女だてらに夜目がきくという特技を武器に、男社会の中で自立しようともがきます。
しかし、大人にとっては男の子も女の子も結局は子供=童でしかなく、性別の壁が立ちはだかるのは身体的な変化が見えてきてからのこと。
そのときにウメはどんな選択をするのか。ウメの前には自身の未来を想像させられる女性たちが現われます。
女は男がいないと生きてはいけない、否、男こそ女に依存して生きている。
これを問いとするか、答えとするか、それがこの小説のテーマの一つでもあります。
現在でも残る地名や場所も登場!
また、現在でも残る地名や場所も登場し、地元民としてはその風景を思い描きながら読める楽しみもありました。
例えば、〈しまね暮らし〉でも紹介したことのある『福光石の石切場』。
銀山と温泉津を往来する石工たちの姿が描かれます。
しまね観光ナビの石見銀山紹介マップを参照すると、小説内でもその名が登場する場所がいくつか案内されています。
・山吹城跡
・清水寺
・佐毘売山(さひめやま)神社
・仙ノ山
・石銀集落跡
・大久保間歩
・釜屋間歩
いずれ町歩きで再訪したら、写真に収めてブログに掲載しますね。
必死に生きる主人公ウメ
物語の女主人公の名前はウメ、今でも大森町の梅林は有名で晩冬の3月頃には春を告げる梅の花の観賞で賑わいます。
戦国時代と現代では、身分制度も道徳・倫理観も違います。共感できることもあれば、読むのがしんどい描写もありました。
それでも、人間の欲や業、生と死の捉え方、など400年くらい前と今とでも変わってない、と思わされることもありました。
それは良き面もあれば、悪い面もあります。人間なんて本質的な部分は数百年単位くらいじゃ変わらないだろうなと突きつけられた気もします。
正直、気持ちが明るくなる物語かと問われると返答が難しい。主人公ウメは成長とともに、幸せな家族を築いていきますが、失われ方も半端ない。
しかし、それを表面的に不幸な人生と言い切ってしまえるのか。その時代、その土地でしか生きられない中での必死の生き方、それは現代だって変わりません。
戦国時代に比べれば、移動や居住の自由は格段にありますが、それだって100%保証されているわけではありません。
不幸にも住めなくなったり、立ち退かなくてはならないことも、確かに今でも目の当たりにしています。
現代だからこそ描かれた小説であり、読まれるべき小説だ、と思います。
さあ、直木賞の発表はもうすぐ!(選考会は1/19)