建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦い展 in グラントワ

建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦い美術
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これまでにもいくつかの建築系の展覧会に行きましたが、本展はやや異質な感じがしました。もちろん悪い意味ではありません。自分がどうしてそんな風に感じたのかを、ゆっくりと文章にしていこうと思います。展覧会は残念ながら終了してしまいましたが、内藤廣さんの建築は全国各地で見られます。高知県の牧野富太郎記念館も設計されていて、今年の朝ドラ『らんまん』とともに脚光を浴びていました。そのような魅力の再発見ができるのも建築の楽しみでありますね。

建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦い
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長い展覧会名に込められた思い。

とても長い展覧会のタイトルです。しかし、見終わってみると確かにほぼ全てが詰まっているタイトルだと分かります。Builtは既に完成している建物。Unbuiltはその逆で建てられてなかった建築物。そして実はタイトルには伏せられていますが、Ongoingという現在進行中の建築のコーナーもあります。そして最も?ハテナと思うのは赤鬼と青鬼でしょう。そもそもはご本人の著作に登場していたキャラクターと言うべきか、自己分析の過程で現われた二つの人格のようです。会場入り口には鬼のイラストとともにそのイメージ像が書かれてあります。

赤鬼の特徴・・・・夢想型、支離滅裂、狂気・情熱、野放図、やけくそ・場当り的、逸脱、快楽主義、放蕩
青鬼の特徴・・・現実型、論理、整合性、緊縮・節約、まとも・堅気、枠組み、精神主義、求道的

建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦い展より
建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦いパンフレット本

一人の中に存在する二人の人格が議論を交わしながら、ときには口喧嘩のようにもなりながら一つ一つの建築が出来上がっていくのが分かります。普通の展覧会のキャプションではあまりお目にかかれない対談形式の作品解説は、いわゆる固い文章ではありません。本当に話し言葉で書かれてあります。そして結構な文字数です。すべてを読み込みながら鑑賞するととても大変です。図録には全文が収録されているのでもちろん買いました。一般書籍としてお買い求め可能です。なるほど建築とは戦いの上に成立しているのだということがよく分かりました。

メディアなどでご本人の言葉を聞けることは貴重な事。

海の博物館 収蔵庫、展示棟架構 反復模型 実物の約5倍(150m)の長さに拡張したインスタレーション
海の博物館 収蔵庫、展示棟架構 反復模型 実物の約5倍(150m)の長さに拡張したインスタレーション
海の博物館 収蔵庫、展示棟架構 反復模型 実物の約5倍(150m)の長さに拡張したインスタレーションが入ってすぐのところに展示してあり写真撮影OKスポットだった。

日曜美術館で特集が組まれていたり、ニコニコ美術館で内藤さん自らも出演されたり、展覧会の講演会がYouTubeでも配信されたりとこれまでの軌跡とこれからについてのご本人自らの言葉を聞けるのは非常に大きなことでした。活字だけではなく生の声だと伝える内容が同じであっても、伝わり方には人となりが立ち現れます。表情や話し方で気持ちもより届いてきます。媒体によっては期限があるものもありますので、興味のある方はお早めにご覧ください。特にニコニコ美術館は長い配信時間ですが、建築に対してますます関心を持つことができる内容でした。やや難しい建築の専門用語も優しく説明してくれています。展覧会場にはたくさんの建築模型が置いてありました。ただ素人にはそれを見ただけでは正直ピンとこない部分が多いです。どういう仕組みなのかは何とか分かっても、それが技術的に難しいものなのかどうかなど。それをフォローしてくれる親切な解説はありがたいですね。

島根県立石見美術館「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」を本人の生解説つきで巡ろう【ニコニコ美術館】
日本を代表する建築家・内藤廣の展覧会を、本人が生解説!展覧会の会場・島根県芸術文化セン...

あらためてグラントワに思いを馳せてみた。

建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦い

「島根県芸術文化センター/グラントワ」の展示で赤鬼と青鬼の対話でとても印象的な言葉がありました。

「オープンのとき、近くに住むオバサン、失礼、ご婦人に、なんか不思議な気分なんだけど、といわれた。昔から建っていたような気がする、といわれたときは嬉しかったなぁ。これも最高の褒め言葉だよね」

「建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦い」展 青鬼のコメント
グラントワ壁一面石州瓦
グラントワ中庭

竣工されたのが2005年で私が初めて訪れたのが2021年5月に開催されていた「ファッション・イン・ジャパン展」でした。そして本展でなんと6回目の訪問になりました。私は益田市民ではありませんが建設過程から完成までを間近で見ていたら、上記のオバサン、否、ご婦人と同じ感想を持ったような気がします。いつ行っても古さを感じない建物です。外観に使われている石州瓦の枚数と存在感は近くで見るとものすごくインパクトを感じます。しかし、遠めから建物を眺める分にはそれほどの強い主張や個性は感じられません。完成した当初から今に至るまで街に馴染んでいる建物なのだと思います。様々な媒体で内藤さんが石州瓦の耐久性の高さと、ほとんどメンテナンスフリーの建築素材としての魅力を熱く語っておられたのが印象的です。

グラントワ美術館ロビー
グラントワ美術館側ロビー
グラントワ入り口
グラントワ廊下
グラントワ案内図
グラントワホワイエ

また、今回展覧会を見た日は大ホールが休館している日でホワイエの見学が自由にできました。初めて入りましたが美術館とはまた異なる雰囲気で、なんだか地底世界に迷い込んだ気がしました。今度は大ホールでクラシックのコンサートを体感してみたいと思います。

グラントワホールロビー
グラントワホール側ホワイエ

駅の設計やデザイン作品も興味深かった。

グラントワや美術館・博物館の建築以外で駅関連の設計をいくつかされているのが気になりました。

展示されていた中には
・日向市駅(2008年/宮崎県)
・高知駅(2009年/高知県)
・旭川駅(2011年/北海道)
・周南市立徳山駅前図書館(2018年/山口県)
・渋谷駅周辺計画(2005年~/東京都)
とありました。


現在進行中の渋谷駅周辺計画は日曜美術館で内藤廣さんの特集が放送されたときにも取り上げられていました。
島根県内の鉄道事情はJR山陰本線か一畑電鉄があります。車社会が一般的な土地ですが、鉄道の旅もたまにしています。最近は駅の中でも映える写真スポットを準備しているところもあります。乗り鉄や撮り鉄だけでなく駅に注目している〇〇鉄の人もいます。しかし駅という場所は周辺環境や路線状況の変化で、変わることを求められる場合もあるのでしょう。導線の変更とか。駅を建てることは今の視点だけでなく、相当に先を見据えたデザインが必要なのだろうなと思いました。

展覧会は終わってしまったけれど。

内容盛りだくさんの展示でお腹いっぱいでまだまだ消化しきれそうにありません。構成の秀逸さや解説文の柔軟さ(無礼講というかざっくばらんな感じ)は、建築系にかかわらず色々と見せ方を考えさせてくれました。建築家ご本人が現役でおられることで、建築模型が現代アートを見ている気分にもなりました。Ongoingの建築物の完成も楽しみです。Built建築では富山県美術館に行ってみたいと思いました。

建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦い
建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦い
建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦い
建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦い
建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしない戦い