11月のはじめに倉敷に行ってきました。
お目当てはライブでしたが、合わせて念願だった大原美術館を訪問しました。
昨年は大原家の別邸で有隣荘の特別公開を見ました。
その時は大原美術館と迷ったのですが、有隣荘の建物の内部を見られるのも滅多になく、モディリアーニの作品も展示されているとなると、有隣荘を選んでしまいました。
と言うわけで、今回はいよいよ大原美術館です。分館は工事のため入れませんでしたが、本館・工芸館・東洋館をじっくり見てきました。
大原美術館は日本初の西洋美術中心の私立美術館です。
原田マハさんの『楽園のカンヴァス』では、主人公の女性が働いているのが大原美術館でした。原田マハさんご自身も子どもの頃に岡山県に住んでいて、大原美術館での思い出を語られています。
大原美術館では館内や展示作品の撮影はできませんので、その素晴らしさをお伝えするのが難しいです。外観の写真ばかりですが、建物を見るだけでも多様な文化や歴史的な背景が分かると思います。
ミュージアムグッズ
展示作品の中から気になった作品のグッズを買いました。
〈ポストカード〉
パブロ・ピカソ「頭蓋骨のある静物」
ジャクソン・ポロック「カット・アウト」
ポール・ゴーギャン「かぐわしき大地」
フェルディナント・ホドラー「木を伐る人」(ぬりえ版も)
〈クリアファイル〉
棟方志功「二菩薩釈迦十大弟子板画柵」
〈ふすま地ブックカバー〉
クロード・モネ「睡蓮」(部分)
大原美術館と言えば、併設されているカフェの店名にもなっているエル・グレコの「受胎告知」が有名です。館内でもこの絵だけは特別な展示スペースが設けられていました。
確かに実物を見たときには、「おぉ、これがかの有名な」という感慨がありました。
訪問日には《コレクション展 OHARAコレクション・ハイライト 収集の軌跡:絵画・彫刻編》が開催されていました。大原美術館の収集の歴史が分かりやすく解説されて、名だたる作家の方々の作品がずらっと並んでいます。そんな中で、気になった作品を二つ紹介させてください。
勢いよすぎでは…
フェルディナント・ホドラー「木を伐る人」
不勉強でホドラーのことを初めて知りました。躍動感のある木こりの、まさに木を切り倒そうとしている一瞬を捉えた絵です。率直な感想ですが、「そんなに振りかぶって、よく同じ箇所に斧を当てられるもんだな」でした。人生のほとんどを自国スイスで過ごしたホドラーは、南アルプスの風景を描くこともありました。木こりの足下の地面が白くなっているのは、積雪のあとでしょうか。
スイスでは今でも国民的画家として人気があるということです。なんと、この「木を伐る人」は紙幣の柄にも採用されていました。妙に見入ってしまうこの絵は、大原美術館のポストカードラックに塗り絵版としても販売されています。買ってはみたものの、一発勝負の塗り絵に挑戦する日が果たしてやってくるのか。
急に良いと思ってしまうのが抽象絵画か
ジャクソン・ポロック「カット・アウト」
絵画を評するときに、好き嫌いではなく、得意不得意と言ってしまうときがあります。好きか嫌いかは、気持ちが直接に反映している表現だと思います。得意不得意はどうでしょう。頭の中でワンクッション考えてからの答え方のように思います。
そこで本作、ジャクソン・ポロックはアメリカの抽象表現主義の代表選手のような人です。自分の中で抽象絵画はあまり得意ではないと思っていたのですが、本作はどうしたものか妙に惹かれました。展示室を一周ぐるりと見て回ってから、最後にもう一度見に行きました。
家に帰ってからポロックのことを調べました。床に置いたキャンバスに、絵の具を滴らせるような独特な技法。精神分析学のフロイトの無意識論をベースにした描き方。ふむふむ。
抽象絵画で私自身が持っていたイメージは自由に好きなように描く。でも、「カット・アウト」を見て、背景からくり抜かれた人型に見えるキャンバス地の部分に色が付けられていました。カットの線もその着色の感じも、とても意識しているように思いました。ポロック自身が格好いいと思う形にしたのだと思いました。
私の勝手な想像と思い込みですが、そう思ってしまってから急にこの絵が良いと感じてしまいました。不得意だと思っていた抽象絵画に急に惹かれてしまったのです。
知らなくてもその前に立つと気が引き締まる
棟方志功「二菩薩釈迦十大弟子板画柵」
大原美術館の設立に尽力した大原孫三郎は絵画や彫刻だけではなく、民藝運動にも深い理解を持って支援をしていました。昭和11年に開館した日本民藝館(東京・駒場)の建設費の寄贈もしています。その縁もあってか、日本で二番目の民藝館建設の土地に選ばれたのが倉敷です。倉敷民藝館は昭和23年に開館されます。大原美術館の工芸館の前身となる陶器館が開館するのは、昭和36年(1961)です。
元は大原家の米蔵であった建物を改装して現在の工芸館となりました。作家ごとに展示部屋が分かれていますが、やや目だ立たないところに階段があったりします。民藝運動を牽引していた作家たちの作品を贅沢に見比べることができます。濱田庄司、バーナード・リーチ、富本憲吉、河井寛次郎、棟方志功、芹沢銈介。
お土産で買ったこのクリアファイルは棟方志功の「二菩薩釈迦十大弟子板画柵」がデザインされています。作品は目線より高い壁に展示されていました。普賢菩薩と文殊菩薩はどっちかどっちだっけ?というレベルの私です。十大弟子ともなると全く分かりません。しかしながら、詳しく知識として知らなくても、その前に立ち見上げて眺めていると気が引き締まってきます。不思議です。買ったクリアファイルを見ているときに、十大弟子が五人ずつ足元が白と黒に分かれているのに気が付きました。おや、これは何か理由があるのかと色々と調べてみました。そしたら、本人の著作の中で、名前は後から決めたという話しが出てきました。彫っているときは誰を彫っているのか決めていなかったというのです。もう少ししっかりと勉強してみないと何とも言えないのですが、なるほど、誰が誰とか分からずに見ていても迫ってくるものがある理由がそこにあるのだ、きっとそうだ、と納得させました。
倉敷観光の際には
大原美術館は倉敷の美観地区にあります。飲食店や雑貨屋など、一日いても色々と楽しめます。訪れる人の趣味や好みを満足させてくれる幅の広い場所です。
大原美術館でも企画展はありますが、収蔵品も多くじっくりと展示してくれています。同じ作品でも、見るたびに違った印象や感想を持てるのもアート鑑賞の醍醐味だと思います。倉敷旅のひとつのプランに大原美術館はいかがでしょう。
大原美術館について
大原美術館
岡山県倉敷市中央1-1-15