2024年1月に101歳でお亡くなりになった柚木沙弥郎さんの回顧展が、全国5カ所の縁の土地を巡っています。島根県立美術館はその3番目。
4月18日から6月16日の期間で開催されています。
展示の構成が面白く基本的には年代順なのですが、各章タイトルは一般的な展覧会っぽくなくて様々な形でテーマで集められた作品が、柚木沙弥郎さんの画業(というのも変ですが)を象徴しているかのようです。
1章 民藝はずっと僕の根っこにある
2章 ワクワクしなくちゃ、つまらない
3章 旅の歓び
4章 今日も明日は昨日になる

撮影できるのは展示スペース入ってすぐのここだけ


展示スペースに入ってすぐ目の前に、唯一撮影が可能な染色作品が天井から吊り下げられています。作品単体で撮影するもよし、一緒に記念撮影するもよし。いずれも年代は古く生地として作られたものだと思います。しかし、ここではモダンアートな作品群のようにも見えてきました。
賑やかでほんわかしている会場
訪問した日曜日がまだ会期序盤であったこともあり、美術館の中は色んな世代の人たちで賑わっていました。家族連れで来ている子ども達も楽しそうです。
昨年の11月に放送された日曜美術館(NHK Eテレ)「Oh! SAMMY DAY 柚木沙弥郎 101年の旅」。たぶん、この番組を見て来た人も多かろうと思います。
放送では柚木さんと12歳の少年とのあったかい交流が描かれていました。手紙のやりとりをしながら、まるで友達のように。
少年が柚木さんを知ったのは中国地方で開催されていた展覧会でした。番組では明言はされませんでしたが、時期的におそらく私たちも足を運んだ美術館だと思いました。その時のレポートはブログにも書きました。
そんな私たちもその展覧会で柚木沙弥郎さんを知ったのでした。
そこでも数々の絵本が手に取って読めるように置いてありました。染色布とはまた違うカワイイ絵や少しドキリとする絵など見入ってしまった覚えがあります。
好みを越えたところにある存在感
旅のスケッチやその土地から友人に宛てた絵葉書を展示しているコーナーにいたときです。
近くにいた別の鑑賞者の会話が聞こえてきました。
「染色作品であれ、そうでないものでも全てに味があって、いいなぁと思えるね」
『それ、分かります』と心の中で返事しました。
普通、絵画展に行くと自分の好みから自分なりに作品の良し悪しを決めてしまいませんか?しかし今日、この柚木沙弥郎さんの手になるものを見ていると、すべてがフラットに受け入れられてしまうのです。何を頼んでも美味しい料理屋さんのようです。
「嫌い、好みじゃない、意味がわからない」という感情が何故だがかき消されてしまうのです。これはなかなか不思議な感覚でした。
良い意味で代表作なんていらない
この不思議な感覚、もっとうまく表現できないかと作品を見ながら歩いているとふと思ったことがありました。
柚木沙弥郎さんの代表作って何だろう。
アーティストにとって代表作とはブランドイメージのようなものではないでしょうか。本人が望む望まないに関わらず、多くの人に知ってもらえた作品が代表作とも言えます。ゴッホの「ひまわり」やモネの「睡蓮」のように。
しかし、本展で柚木沙弥郎さんの様々なジャンルの作品を目にして、果たしてどれが代表作なのだろうと思いました。
その理由は一緒に見に行っていた妻からの質問です。
「どれが一番よかった?」
美術鑑賞では当たり前の会話です。けど、即答が出来ませんでした。別に一つに絞る必要はないじゃないか。そう思えてしまいました。
晩年の作品に近づくにつれて、色も形もシンプルさが増しているように思います。ただ、決して単純な構図というわけではありません。
「何となくいいね」と「何か深い意味がありそう」が見事に同居しているのです。
ちなみに・・・妻が好きだった作品
①晩年の作品「DEAN & DELUCA」カフェのための作品原画
染め物って、ちょっと染料の関係もあるかと思いますが、ちょっと渋めの色合いになりますよね。
その点、折り紙などで作られた切り絵の作品は、原色のビビットで明るい色がPOPで可愛く見えて、このデザインの手拭い欲しい!!と思ってしまった作品でした。
いつかカフェにも行ってみたいなあ。
②鳥獣戯画図
大きな横に長〜い作品で、今にも動き出しそうな動物たちにびっくりしました。京都の高山寺にある鳥獣人物戯画(国宝)と見比べてみたいものだな、と思いました。
③メモ帳やスケッチブックなどの展示コーナー
柚木さんの中身をちょっと覗かせてもらっている気がして、ワクワクしました。そしてちょっとしたスケッチももう作品だな・・・
④ならぶ人ならぶ鳥
目が印象的だな、と思った作品。
同じように描かれているように見える目なんだけど、みんな同じに見えるようで(それはそれでなんだか不思議な雰囲気)また、全然表情が違って見えるような気もして、気になる、なんだか気になる気持ちになりました。
ざわざわ、もやもや感が!!
たまに見ていろいろ考えたいな、と思い、クリアファイルとしてグッズで販売していたので購入しました。
⑤海外へ旅された時の絵の作品たち
柚木さんの作品は染め物、切り絵、絵本などのイメージがあり、絵の作品は新鮮でした。
買ってきたグッズ

手拭いはもちろん!トラベルノートとクリアファイルも購入しました。
Tシャツ、バック、キーフォルダーやマスキングテープ、食器など他にもたくさんあり悩みました。
小さなトラベルノートは、旅の思い出を書こうかな・・・

楽しまなくちゃ

「楽しまなくちゃ」
この言葉は旅のアルバムに走り書きしたと解説にありました。
私にとって柚木沙弥郎さんは晩年の優しいおじいちゃんの印象が強いのですが、アーティスト人生を振り返る展覧会を見ると、悪戦苦闘・試行錯誤・山あり谷ありで尖がっていた時代もあったのだろうと当たり前に思えました(若い頃の写真を見ると)。
いつか朝ドラになりそうだ、と自然と思ったりもしました(個人の見解です)。
島根県とは浅からぬ縁があって実現された展覧会です。私は民藝のルートから柚木沙弥郎さんと出会いました。本展をきっかけに民藝に向かう人もいれば、絵本に向かう人もいるでしょう。
まずは自らが楽しい日々を送ることを大切にしていたと思う柚木先生なら、あなたがワクワクする方に行きなさいときっと言ってくれることと思います。


柚木沙弥郎 永遠のいま

柚木沙弥郎 永遠のいま
2025年4月18日(金) ~ 2025年6月16日(月)まで開催
島根県立美術館
島根県松江市袖師町1-5