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館長の分かりやすい説明が聞けるギャラリーツアーに参加してみて!「安来市加納美術館」

安来市加納美術館美術
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日に日に、昼間の気温も暖かくなってきましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今日はGWに訪れた安来市加納美術館のレポートをお届けします。
美術館そのものについては「山陰ココビト綴り」で詳しく書きましたので、そちらもどうぞご覧ください。

美術品コレクション満載!平和学習にも力を入れる「安来市加納美術館」 - ココビトの綴り
美術館や博物館に行くのが趣味の私たち「しまね暮らし」です。今日は安来市加納美術館をご紹介します。 安来市加納美

「しまね暮らし」では開催中だった企画展と、参加したギャラリーツアーについて書いていきますので、最後までお付き合いのほどよろしくお願いします。

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企画展「安来市加納美術館の名品展ー収蔵品カタログ①」の見どころ

安来市加納美術館

美術館の収蔵品の成り立ちとしては、画家加納莞蕾(かのうかんらい、本名は辰夫)の作品群、創立者であり長男の加納溥基(ひろき)氏の備前焼や茶陶・茶道具のコレクション、地元作家の彫刻や工芸作品が主となっています。本企画展ではその中から、「春」をテーマにした日本画・洋画・備前焼・彫刻・茶道具より厳選された作品が展示されています。
日本画のコーナーでは岡山県ゆかりの小野竹喬(おのちっきょう)と池田遙邨(いけだようそん)の作品が、洋画では加納莞蕾の作品が展示されています。

安来市加納美術館
安来市加納美術館

小野竹喬の繊細な色合いの美しい絵も良いですが、私は池田遙邨の色んな富士山の絵に興味を持ちました。
特に「芦ノ湖の富岳」という作品は輪郭線がはっきりと印象的で、セザンヌの山の絵を彷彿とさせる感じがして良かったです。
(小野竹喬は岡山県笠岡市に「笠岡市立竹喬美術館」あり、池田遙邨の作品は倉敷市立美術館に多く収蔵されているみたいです。)

安来市加納美術館
この富士山が個人的には一番気に入りました!
※展示品の撮影はOkですが(展示にもよるとのこと、今回の企画展はOKでした)、アップはNGとのことだったのでチケットバックに少しぼかした写真を掲載しています。

備前焼は古備前から人間国宝の作家のもの、彫刻は安来市広瀬町出身の西田明史(にしだめいし)と細田育宏(ほそだやすひろ)の作品が展示されています。

安来市加納美術館
安来市加納美術館
こういったコメントもなんだか高価な工芸品を身近に考えることができ分かりやすい!と感じた点。

コロナ禍になってから焼き物に興味を持つようになって、島根県内の窯元巡りをしたりもするようになりました。
ただし、まだ備前焼は頑丈で重たくて無骨な感じというイメージしかなかったですが、実際に目にしてこれから沼に入っていきそうな予感です。やっぱり見るのと使うのとでは違いますから、まずはそこまで高価なものではない品から始めてみようかな。

安来市加納美術館

茶器と蒔絵のコーナーでは、民藝運動でも有名な安来市出身の河井寬次郎(かわいかんじろう)や、黒田辰秋(くろだたつあき)や富本憲吉(とみもとけんきち)、また蒔絵作家・大谷歓到(おおたにかんとう)の作品が展示されています。

本展は「収蔵品カタログ①」やテーマが「春」という名称から推察されるに、また違ったテーマでこのシリーズが続くのだと期待しています。
二回目はいつになるのかは不明ですが、次回の名品展も楽しみです。
本展は5月21日(日)まで。

2023年度の企画展の予定

尚、2023年度の企画展の予定は以下のとおりです。

5月27日(土)~7月30日(日)
企画展「楽山焼の色絵~変わりゆくもの、変わらないもの~」

8月5日(土)~10月15日(日)
企画展「四国五郎展~シベリア抑留から『おこりじぞう』へ~」

10月21日(土)~12月24日(日)
企画展「人形二人展」(予定)

ギャラリーツアーで満足度アップ

安来市加納美術館

本日のギャラリーツアーは館長の千葉潮さんの案内で館内を巡りました。10時半よりスタートして、結果、終了したのはお昼を回っていました。
予定を超える時間になりましたが、鑑賞するだけでは知り得ない様々な話を聞くことができました。
ギャラリーツアーの良いところは、講演会形式とは違って参加者は説明を聞きながらでも、自由に好きな作品を見ることができる点にあると思います。
ツアー形式のため置いて行かれると辛いですが、気に入った作品には時間の許す限りじっくりと向き合えます。
しかも、千葉館長はときおり冗談も交えつつお話をされるので、知らない作家や詳しくないジャンルのことでも頭の中にスッと入ってきます。


個人的には備前焼に興味があるので、古備前の歴史的背景や、備前焼の陶工としては初の人間国宝である金重陶陽(かねしげとうよう)の話しに聞き入りました。

安来市加納美術館 金重陶陽作品
これが備前焼…細かい巧妙な技法にびっくり驚きました。

また、企画展の説明を終えてから常設展「今こそ世界の平和をー莞蕾の想いをつなげてー」に向かいましたが、ここでの千葉館長の熱いトークに参加者の誰もが真剣に耳を傾けていました。

画家としての加納莞蕾なのか

安来市加納美術館
安来市加納美術館

ギャラリーツアーでの千葉館長のお話や、莞蕾の展示作品を見ながら個人的な感想をまとめようと思います。
展示作品は収蔵品の一部になりますので、全体像を掴めてはいないですが、油彩画ではフォービズム(野獣派、アンリ・マティスで有名)の影響を色濃く感じます。
鳥取県出身の前田寛治(まえたかんじ)や佐伯祐三(さえきゆうぞう)との交流からも窺えます。
絵のモチーフでは花や食べ物の静物画(ゴッホ然とした厚塗りもあり)、海の風景などが展示されていました。
岸壁や波の表現では、ギュスターブ・クールベの絵を思い起こしました。荒い筆致で、勢いよくキャンバスに筆を乗せたような感じがします。
戦前には教諭として浜田市に赴任となったこともあり、魚や魚市場の絵もありました。

しかし、戦争が始まると従軍画家として中国の山西省に渡ります。およそ1年間の滞在でしたが、戦後の水墨画への傾倒につながる体験があったようです。
この時代を生きた人はすべからく戦争体験者ですが、どの場所に立ち会って、どのように行動して、過ごしていたかで、おそらくはその後の人生を左右したのだと、私の浅い想像力で考えてしまいます。
戦後の日本人フィリピンBC戦犯の助命嘆願書の活動は、今では平和思想を伝えて考える教育の一環として見直されています。
フィリピンのエルピディオ・キリノ氏が元大統領として来日した際には、アポも取らずに会いに行ったエピソードがあります。その時、莞蕾は布部村の村長をしていました。
けれども、キリノ元大統領には自身が書いた絵をプレゼントして、画家として名乗ったようです。

この助命嘆願書活動の発端となったのは、木次(雲南市)出身の古瀬貴季(ふるせたけすえ)元海軍少将との出会いがあったからです。
彼の戦争の罪を深く反省する姿勢に感銘を受けて、彼の助命嘆願はしないで欲しいという約束を反故にして、彼を救おうと行動を起こしたことから始まりました。
私は加納莞蕾のことを、映画「シンドラーのリスト」のオスカー・シンドラーや日本人外交官だった杉原千畝みたいな人だと勝手に思っていたのですが、千葉館長の話を聞いてどうも少し違うようだと感じました。
まず、救った相手が違います。民間人や避難民ではなく、戦犯(しかも、罪を認めている人もいる)者であったこと。冤罪かもしれない人を助ける行動とも違います。
嘆願書を読む限り、気持ちは分かるけど相手からすると何とも虫の良い話しだ、という率直な感想を持ちました。
しかし、莞蕾はそのような嘆願書を世界の要人に対しておよそ300通以上も送るのです。非常に失礼な言い方かもしれませんが、頑固を押し通して日本人を救った人だと思います。
そして、莞蕾の偉いところはそれをゴールとするのではなく、そこから日本はフィリピンや他の国々から、日本はどうやっていくのかをずっと見られる立場になったと認識していたことです。
このストーリーから私が感じたことは、平和の捉え方は立場によっていくつも存在してしまうけど、それでも、人類として共通の大切にしなければならない一つのことがあるに違いない、それを認識の違う人たちに対して、そして自分自身に対して、根負けしないようにずっと続けることが、すなわち平和への道なのだろうと思った一日になりました。

安来市加納美術館
嘆願書を送るのに使った道具など展示してありました。

最近では中学生の平和学習や小学生の修学旅行などの来館も増えているとのこと。

今後も発見される!?莞蕾作品のコレクションについて

近年、莞蕾の絵画作品が新たに見つかるケースが増えているようです。
莞蕾は大田市の三瓶山に魅せられて、度々、訪れていました。その時に描かれた絵を持っているのですが、などの問い合わせが今でも入るそうです。
何を隠そう私たちの三瓶在住の知り合いがその一人で、この訪問日の前にその実物を見せてくれました。

加納莞蕾三瓶の絵
加納莞蕾三瓶の絵
反射してしまってうまく撮影できなかったので少し絵を移動して撮ってみました。2枚とも同じ作品です。

大田市との縁は、名誉館長の加納佳世子さんが書かれた小冊子があり、『仁摩サンドミュージアム企画展「大田を愛した莞蕾」によせて 莞蕾こぼれ話」に詳しく載っています。
この企画展はコロナ禍の影響で期間短縮と講演会が中止になってしまいました。機会があれば是非、もう一度開催して欲しいです。
莞蕾の作品は三瓶山の絵に限らず、これからもまだまだ見つかっていない名作が発見されるかもしれませんね。

再訪したくなるきっかけ

美術鑑賞が趣味です、と言われると全国を巡回するような大型企画展に目が行きがちですが、地方の小さな美術館にも魅力はたくさんあります。
今回のように名誉館長や館長、学芸員さんと直にお話をすると、見て帰るだけの場所ではなくなります。
サブスクのようにあなたのおすすめの音楽や動画はコチラですよ、と促されるように話しを聞いていると、自分の興味や関心の幅がどんどん広がっていくのを感じます。
実際にはなかなか厳しい運営を迫られているところもあると思いますが、自分でも足を運び、微力ながらこうして魅力を発信していきたいと思います。

安来市加納美術館について

安来市加納美術館

安来市加納美術館

住所:島根県安来市広瀬町布部345-27
電話:0854-36-0880
開館時間:9:00-16:30(入館は16:00まで)
休館日:毎週火曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12/25-1/10)、展示替えによる休館日あり
入館料:一般1,100円 団体900円(20名以上) 大学生・高校生550円 小・中学生無料 ※障がい者手帳をお持ちの方と介護者1名は無料
※お得な年間パスポートもあります。詳しくはHPをご覧ください。

HP:https://www.art-kano.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/yasugi_kano_museum/
Facebook:https://www.facebook.com/Art.YasugiKano
Twitter:https://twitter.com/ysg_kano_museum

ギャラリーツアーは不定期で日曜日に行われています。

詳しくは、HPまたはSNSをご覧ください。
またギャラリーツアーとは別日にご説明を希望の方は、事前に美術館へご連絡いただけると案内も可能とのこと。