第70回日本伝統工芸展へ行ってきました in 島根県立美術館

第70回日本伝統工芸展、島根県立美術館美術
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今年も日本伝統工芸展が島根県立美術館にやってきました。
第70回の記念展です。鑑賞回数を重ねてきてそれなりに伝統工芸展を楽しめるようになりました。
出品図録と受付で借りた鉛筆を手にして、いいなと思う作品があればチェックしていきます。展示作品には作家名と作品名と出身地だけの少ない情報しかないので、家に帰ってからいったいどんな人が作ったのかを調べるのも楽しいです。

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ギャラリートークに耳を傾ける。

第70回日本伝統工芸展、島根県立美術館

20日間の短い開催期間ですが、記念講演会・ギャラリートーク・工芸技術記録映画上映とイベントは盛りだくさんです。今年は12月9日に訪問してギャラリートークに参加しました。
講師【諸工芸(截金)】中村佳睦さん(本展第一次鑑査委員)
聞き手【諸工芸(七宝)】松本三千子さん(本展第一次鑑査委員)
お二人とも諸工芸に属されている方ですが、そもそも諸工芸にはどのようなものがあるのでしょうか。

日本工芸会東日本支部のHPに次のように書いてあります。

特色は、内容が多岐に及び、七宝(しっぽう)、硝子(がらす)、砡(ぎょく)、硯(すずり)、截金(きりかね)、象牙(ぞうげ)、和紙(屏風(びょうぶ)/墨流し(すみながし))、木画(もくが)、等の工芸が含まれ分野によっては古墳から出土したものや、正倉院宝物として今日に伝世されるものがあり、何れも長い歴史と伝統を有します。

諸工芸 / (公社)日本工芸会東日本支部

ギャラリートークでは松江会場で展示されていた諸工芸の作品を一つ一つ解説して頂けました。日本工芸会奨励賞を受賞した藤野聖子さんの『截金飾筥「光彩万華」』、この作品の解説が興味深かったです。

受賞の総評には次のように書いてあります。

十四角形の箱の表面に金箔とプラチナ箔による截金が施されている。截金の意匠は、藤棚で咲き誇る藤花の景色を、万華鏡のような構図と配色で巧みにデザイン化したものである。蓋を開けると、八角形の二段重ねの箱があり、各側面に截金が可愛らしく施されている。蓋と身の角数が異なるのは、身の截金がこすれない配慮である。(猪熊兼樹)

截金飾筥「光彩万華」 藤野 聖子-公益社団法人日本工芸会

しっかり見ないと見逃してしまいそうですが形がとても凝っているのです。八角形なのですが相対する二辺の長さが他よりも長く作ってあります。そしてギャラリートークのときに蓋を開けてもらえて中身を見ることができました。さらに驚くのは上記の総評にある通り中身と蓋の形が異なっているのです。
凝っているということはとても手間暇がかかっていて、技術的にも高度なものであるのだろうと解説を聞きながら思いました。そしてふと伝統と革新という言葉が頭に浮かびました。截金の技法の起源を辿ると飛鳥時代にまで遡れるそうです。長く深い伝統を重んじながらも、現代性を出すための努力を現在の作家の皆さんはされているのだと感服しました。
また革新はどうやって誕生するのだろうと考えました。革新とは一瞬のひらめきとかアイデアとかばかりではなく、時間と労力のかかる上に少しずつ成り立っていくものではないかと思いました。さらにその過程において新技術や新技法が生み出されているかもしれません。あるいは逆に新しい道具や機械や資材が革新を生み出しているのかもしれません。

七宝に縁がある。

もう一つ触れておきたいのは七宝ですね。2019年の第66回展を見に行った日にもギャラリートークをしていて、ちょうど七宝作家の方が講師でした。何だか七宝焼きに縁があるみたいです。今回、聞き手役として登場された松本三千子さんが出品された『省胎七宝鉢「宙Ⅲ」』にもびっくりさせられました。胎は七宝の装飾の土台(素地)となるものでそれを省くと書いてあります。省く?何を?
省胎七宝では素地に銅を用いて焼成・研磨までしてから、酸で腐食させて胎を溶かして無くします。するとガラスみたいに透かして見えるようになります。何とも二人の話しを聞いていると化学の講義を受けている気分になりました。もうどこかで七宝体験に行くしかないか。

超絶技巧に感動したい。

ここ数年、工芸の展覧会のみならずアートの世界では超絶技巧が一つのキーワードになっているように思います。すごいリアルだったり、すごい小さかったり、いったいどうやって作ってあるんだコレ、と思わされるものが超絶技巧に値すると思いがちです。しかしパッと見では素人には分からない作品や技術でも、実はものすごい超絶技巧を使いこなしているものがあると日本伝統工芸展に行くと感じます。実は超絶技巧なんです、という作品にもっと気づけるようにこれからも伝統工芸品を知っていきたいと思いました。