気づけば、フィンランドのデザインに関わる展覧会を見るのも3回目になります。
これまでに、
「ザ・フィンランドデザイン展 自然が宿るライフスタイル」@Bunkamuraザ・ミュージアム(2021.12)
「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」@島根県立石見美術館(2023.6)
に行きました。
この記事を書くために傍らには3冊の図録が積んであります。
余談ですが、松江市の島根県立美術館でもう一つのフィンランド・デザインの展覧会が開催中です。
「タピオ・ヴィルカラ 世界の果て」が(8/31まで)。
生誕110年と没後40年を記念する日本初の回顧展です。
どちらも鑑賞すると記念グッズがもらえるキャンペーンもしています。

さてさて、3回目となればすっかりフィンランド通でしょうと思いきや、そんなことはない、驚きの連続でした(単に不勉強なだけですが)。
びっくりしたこと、「へぇ、そうだったのか」、「知らなかったなぁ」と関心したことなどを綴ってまいります。
時代を超えるとは歴史をさかのぼること


自宅で普段使いをしている方もおられるだろうし、カフェや喫茶店で使ったことがある人もたくさんいるでしょう。シンプルな造形と柄もない単色なのに見ていて飽きない。この《ティーマ》シリーズが誕生したのは1981年ですが、その旧モデルとなる《キルタ》まで時間を戻します。時代は1953年です。本展の図録にその経緯が紹介されている文があります。図録の紹介文を一部抜粋します。
《キルタ》が生まれた背景には、第二次世界大戦後の深刻な住宅難があった。戦争による破壊、カレリア地方からの避難民の再定住、そして人口の都市集中が重なり、フィンランド全土で住居不足が深刻化していた。新しいアパートでも台所は狭く、収納スペースも限られていた。こうした現実のなかで、従来のように多くの用途別の食器を揃えることは難しくなっていた。そこでフランクは、機能的で重ねやすいかたちと、多用途に使える汎用的なデザインによってこの問題を解決しようとした。これが《キルタ》の出発点である。
ー図録の紹介文より引用ー
カイ・フランクを知るとフィンランドも知れる

引用文は、《キルタ》が出来上がるまでの経緯です。戦争の時代から日常を取り戻すための時間です。日本も同じく戦後からの復興の時代でしたが、どうしてかわたしは幕末から明治にかけての時代が思い浮かびました(幕末が好きなせいですが)。
「ディナーセットを粉砕せよ」はなかなか過激なキャッチコピーに聞こえますが、《キルタ》がすぐには売れなかった、多くの市民に受け入れられなかった背景があったのです。
いきなり武士を廃止すると言われても、すんなりと納得できる人ばかりではありません。徳川の世、江戸時代を良き時代として懐かしむ人も少なくなかったでしょう。
令和の今、展示されている《キルタ》はお洒落に見えるばかりです。国境や時代を超えても、美しいものは美しいのだ。なんて分かったように感想を述べている場合じゃないな、と3回目のフィンランド・デザイン展でようやく知りました。

《キルタ》=《ギルド》の理由

フィンランド語で《キルタ》はギルドのことです。ギルドという言葉を初めて知ったのはRPGのファイナルファンタジーでした。同業者の組合というような意味合いです。それを食器のシリーズの名称にするなんて、どういう意図があるのだろうと色々と調べましたが判然としません。しかし、【シンプルなデザインで他のシリーズの器と組み合わせることもできるようになっていた】という一文で、「なるほど、そういうことか」と自分なりに納得できました。
つまり、同業者が作った他の食器ともあなたの好きなように自由に組み合わせて使ってください、ということなのだと思います。《キルタ》を揃えたい人は揃えればいいし、気に入ったものを一つだけ買って、既に持っている器と一緒に使ってもいいですよ、と言っているのです。今の日本人の感覚からすると何の違和感もなく当たり前のことです。しかし、当時のフィンランドの人々には生活の価値観を改めなくてはならない出来事だったのでしょう。
カイ・フランクと日本との関係
カイ・フランクは三度にわたって日本を訪問しています。その研究は今も続いていて、本展では来日中の移動先などが年表として展示してあって面白かったです。訪問先のひとつに「北大路魯山人宅?」という表記もあって、引き続き調査の進展に期待します。
そういえばフィンランドといえばサウナを挙げる人もいるかと思いますが、ネットで調べてたら銀座の「東京温泉」に初めての国産サウナが登場したのが1957年とありました(諸説あるのかな)。カイ・フランクが初来日したのが1956年です。「イッタラ展」の図録によると日本で最初のフィンランド・デザイン展が東京で開催されたのが1958年と紹介されています。色んな切り口から日本とフィンランドの関係を調べるのも面白そうです。


《ティーマ》誕生

今でも買える《ティーマ》のシリーズ。
ティーマの発表は1981年、カイ・フランクが亡くなる8年前です。
その経緯を振り返ると、ティーマも時代に翻弄されるなかで生まれたといえるかもしれません。1973年にオイルショックが起こり、全世界的に経済が混乱を来たしました。《キルタ》は発売から20年以上が経ち、フィンランド国外でも人気を博す商品になっていました。しかしながら、原材料の高騰や不安定な経済情勢の影響で1975年に廃盤となりました。ところが復活を望む声は多く、再びカイ・フランクの元で陶器であったキルタの素材を磁器に替えて新しいシリーズに着手するのです。ティーマの誕生です。磁器にすることで徐々に普及していた電子レンジにも対応できるようになりました。時代の荒波に飲み込まれた船出でしたが、見事に時代を乗り切って今も続いているのです。
時代は変わっても残るものは残る

カイ・フランクは自ら土をこねてロクロを回して陶器を作れる人ではありませんでした。ずっとチームで共同作業をする人でした。具現化したイメージを作ってくれる人たちと仕事をして、それを世に送り出していく。形にすることで満足する人ではなく、使ってくれる人まで届けることが仕事だったのでしょう。
今回の展覧会は年代ごとに作品の展示とその背景の解説が分かりやすく、フィンランド・デザインについて理解できることが多くありました。未だに《ティーマ》のマグカップをひとつ持っているだけですが、良き出会いがあれば増やしていきたいです。


カイ・フランク展 時代を超えるフィンランド・デザイン


カイ・フランク展 時代を超えるフィンランド・デザイン
会期:2026.6.27(土)〜9.6(日)
会場:島根県立石見美術館




