先日、島根県立石見美術館(益田市グラントワ内)で開催中の「河井寛次郎と島根の民藝-手がつくる、親しいかたち-」展に行ってきました。
河井寛次郎は島根県安来市出身で陶芸家としては主に京都で活躍した方です。
それではどんな展覧会なのか見ていきましょう。
展覧会の概要
会期:2021年9月11日(土)~11月1日(月)
会場:島根県立石見美術館(益田市)
開館時間:9:30~18:00(展示室への入場は17:30まで)
休館日:毎週火曜日
第1章 河井寛次郎 古陶磁研究に基づいた制作
第2章 河井寛次郎 民藝への傾倒
第3章 河井寛次郎 自由な造形
第4章 民藝運動の推進家たち
第5章 島根の民藝運動
第6章 島根の手仕事
寛次郎の陶芸家への道と変遷
現在、改装中の島根県立美術館(松江市)には陶芸家・河井寛次郎(1890—1966)の作品が多数所蔵されています。そして年代を追って作品が展示されているため、寛次郎の作陶の変遷がよくわかるようになっています。
特に民藝運動に出会う前と後、戦前と戦後、の変化は興味深いです。
寛次郎の名が世間を賑わすことになったのは、31歳のときの初個展です。
このときは長く研究してきた中国や朝鮮の古陶磁を、自分なりの方法論で細かい技巧を駆使して作った作品が世間に衝撃を与えたそう。
しかし、少しずつこのままでいいんだろうか、という悩みを持ち始めました。それを打ち破ったのが、かの民藝運動です。東京高等工業学校窯業科の後輩である濱田庄司を通じて柳宗悦と知り合って、寛次郎の世界は新たな局面へと突入していきます。
民藝に傾倒するようになる(34歳頃~)と、作風にも顕著な変化が表れてきました。形状は素朴になり、色彩やデザインもシンプルになっていきます。
あくまでも生活の中で使われることを念頭に作られ、それまでの繊細な作品から無骨な雰囲気をまとい始めます(良い意味で)。
戦時中になると作陶が困難な時期になりますが、寛次郎は決して腐ることなく言葉や文字による表現を追求して、どんな時でもクリエイティブは忘れなかった。
戦後になると民藝への思いはそのままに、けれども造形はより個性的に斬新なデザインになっていきます。
陶芸展の楽しみ方がだんだんとわかってきた
陶芸などの工芸展は絵画展に比べると、どうしてもとっつきにくいところがありませんか。
ちょっと立ち寄ってみた、と観覧しても「すごい人が作るとこうなるのね」といった感想。
絵画は描かれている物語を自分なりに想像して楽しめますが、陶芸作品は見た目は器でしかありません。そのため、作家のことや技法、基本的な釉薬の知識などが鑑賞者には求められます。
何も知らずに見ると感動は薄くなってしまいがちです。
陶芸初心者さんは 島根県立石見美術館Twitter、Instagramをチェック!!
#河井寬次郎と島根の民藝
【ココみて!✨ 】様々な技法~「打薬(うちぐすり)」~
大きな筆に赤や緑の釉薬をたっぷり含ませて、作品に向かって勢いよく打ちつけて模様を描く技法です。ダイナミックな釉薬の飛びはねが見どころです✨✨本展メインビジュアル《三色扁壷》もこの技法が使われています。 pic.twitter.com/OI8srIr3ly— グラントワ (@Grand_Toit) October 8, 2021
本展の会場となっている島根県立石見美術館はTwitterやInstagramで様々なプチ情報を配信しています。
あらかじめ知ってから作品を見ると、理解と興味がだんぜん深まります。
ぜひチェックしてから美術館へお出かけください。
「河井寛次郎のおはなし」というリーフレットも素敵
さらに展示室前の受付で、「河井寛次郎のおはなし」というリーフレットがもらえました。B5サイズ、16ページで紙質も上等な仕上がり。
寛次郎の陶芸家としての歩みから造形や技法のことまで、初心者には分かりやすく書いてあります。
私も会場では作品を見ながら、その都度ページを開いてみて「なるほど、なるほど」と。
どうぞ恥ずかしがらずにしゃがんで下の方から覗いてみたり、角度によって目に映る状態もちがいますから色々と試してみてください。
「釉(くすり)の河井」と称される所以
「釉(くすり)の河井」と呼ばれるほど、寛次郎は釉薬を熱心に探究・研究してきました。
例えば、「碧釉(へきゆう)」という深みのある青色の釉薬は、寛次郎が71歳のときに完成させたものです。晩年まで挑戦を続けてきた姿勢が伺えます。
初めてこの作品を見た時、天空の城ラピュタに出てくる飛行石!?もしかして飛行壺!?と思ってしまいました。
一番大好きな作品です。
作品のタイトルには「釉薬+形状+用途」の漢字をつなげているものも…
View this post on Instagram
「海鼠釉五角食籠(なまこゆうごかくじきろう)」
釉薬:海鼠釉
形状:五角
用途:食籠
最初の海鼠釉が使われている釉薬で、少し白い濁りがかっている青色が表情となっています。
五角は真上から見て五枚の葉のように五角形に見えるデザインの蓋が特徴の形。また、食籠とは蓋付で食べ物を入れておく器全般を意味しています。
こんな風に漢字の羅列のタイトルでも、分解することで表現している世界観に近づけるのです。
島根の民藝を知る
展示順路の後半は島根県の民藝について紹介されていきます。個人蔵の作品もありますが、出雲民藝館所蔵の作品が目につきます。
以前出雲民藝館 へ行ったときの写真と一緒にご覧頂ければと思います。
ここは本館と西館の2棟で様々な民藝品が展示されています。元は木材蔵だった西館では、河井寛次郎が絶賛したという出雲・大津の素陶器も展示されています。
残念ながら現在ではその生産は途絶えてしまっていますが、装飾性がほとんどないにもかかわらず強烈な存在感を示す素陶器は、まさに暮らしの中の美しい道具としての佇まいを感じさせてくれます。
民藝の作品についてもっと見たい方はぜひ出雲民藝館もおすすめです。
島根は民藝が流行ったのが早かった
柳宗悦は昭和6年(1931)に、島根の津和野から安来までをめぐり、民藝調査・「島根工藝診療」を行いました。そして現益田市喜阿弥町の「喜阿弥焼」、石見地域の「石見焼」、大田市温泉津町の大規模な登り窯、出雲地域の「日の出団扇」など、島根の様々な手仕事に民藝としての価値を見出し、それらの魅力を全国に紹介しました
http://www.grandtoit.jp/special/kanjiro_shimane_mingei
この動きは民藝運動の発祥である京都に次ぐくらいの早さです。なお、寛次郎は同年に地元島根県で初の個展を開催したそうです。
展示作品の中に民藝運動についての全国の地図が飾ってあったのですが島根県の割合が大きいのもびっくりしました。
陶芸の器を使ってみるのも楽しい
民藝は深くはまり込む沼のような面もありますが、現在でも民藝運動家たちのイズムを受け継ぐ窯元が日々、陶芸作品を作っています。
レジェンド陶芸家の作品を愛でるのもいいですが、現役作家のしかも手の届く範囲の価格で購入できる器をちゃんと使ってみるのも入口のひとつです。
そんなお皿で盛り付けると、いつものおかずもなんだか美味しく感じますよ。
こちらの記事もぜひご覧ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
島根県立石見美術館について
島根県芸術文化センター グラントワ
(中に島根県立石見美術館がございます)
〒698-0022 島根県益田市有明町5番15号
島根県芸術文化センター「グラントワ」
TEL: 0856-31-1860
<記事を書いた人>
しまね暮らし「しまねの美術担当」
アートブロガーの町平亮(マチ ヘイスケ)です。
30代後半から美術にはまり中。
普段はnoteで記事を書いています。
noteはこちら💁♀️
町平亮(マチ ヘイスケ)@アートブロガー