『タピオ・ヴィルカラ 世界の果て』展覧会レポート~世界の果て(ULTIMA THULE ウルティマ・ツーレ)と言うけれど、どうも果てには先があるようだ~

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て 美術

島根県立美術館で開催しているタピオ・ヴィルカラ展の鑑賞レポートをお届けします。

ヴィルカラはフィンランドを代表するデザイナーです。彼の異名はたくさんあります。

  • 多彩な天才
  • 北欧デザインの巨匠
  • 20世紀の最も偉大なデザイナー
  • フィンランドのレオナルド・ダ・ヴィンチ
  • ガラスの詩人

さまざまな素材で多くの作品を残しているからでしょう。特に有名なのはガラス製品ですが、磁器、銀食器、宝飾品、照明、家具、紙幣、グラフィック、空間、木彫など。

本展は日本で初めてのヴィルカラの回顧展となっています。以下の六つのテーマで展示が構成されています。

1章:ヴィルカラへの扉

2章:素材のすべてを知る

3章:心のよりどころ

4章:造形の園

5章:ヴェネチアの色

6章:世界の果てへ

もう展覧会は終了間際ですが(島根県立美術館は8/31まで開催でした)北欧雑貨やフィンランドのデザインに興味がある方に楽しんで読んでもらえると嬉しいです。

ギャラリートークとナイフの話

当日はギャラリートークの最終回、開始時間の10分前から入口付近には参加を待つ人が集まっています。ギャラリートークは展示作品の解説を学芸員さんから直接聞ける貴重な機会です。

〈2章:素材のすべてを知る〉では、多彩な素材と向き合って生み出された数々の作品が展示されています。その中に《プーッコ》とフィンランド語では言うナイフが展示されていました。

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

実は展示室に入る前のロビーでヴィルカラを紹介する古い映像が流れていました。暮らしに必要な身近な道具として小ぶりなフルーツナイフほどの大きさのナイフを手にしていました。館内にはパンを薄くスライスする写真も展示されています。ヴィルカラは自身の子供たちにも、小さい頃からナイフの使い方を教えていました。

生涯にわたり《プーッコ》のデザインをいくつも手がけています。作品を製作するには素材と道具が必要です。ヴィルカラにとってナイフという道具は、仕事においても生活においてもずっとそばにあったものなのでしょう。

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て
斧もデザインしてたとは!

私ごとですが小中学生のときにカブ・ボーイスカウトをしていた時期があります。今は分かりませんが、当時は小さいナイフを手に色々な活動をしていました。

現在はナイフではなく鎌(カマ)や鋸(ノコギリ)をよく使っていますね。

これは使ってみたいマグカップ

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

《カラヴェル》と名付けられたコーヒーカップです。フィンランド航空の機内サービス用に依頼された食器類のひとつです。持ち手をご覧ください。普通は輪っかになっているのに不思議な形状です。これは飛行機の尾翼をイメージして作られたデザインです。どんな持ち具合なのか、試してみたいですね。

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

日本人としては黒と白だとお葬式を思い浮かべてしまいましたが、フィンランドでの色彩の捉え方は違うだろうし、作品を前にして機内で実際に出されたらと想像したら全然アリだと感じました。

自然を表現し続けた人

《2章:素材のすべてを》にはドローイングのコーナーや、ポスターのデザイン画の展示がありました。

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

上の絵は特に説明もなく、何となく宗教の一節を伝えるような絵かなと感じました。リアルな自然の表現が多いヴィルカラの中にも、このような物語性のある絵を描くのだと写真に撮りました。

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

こちらは「スカンジナビアのデザイン展」で採用されたポスターです。葉っぱがモチーフとなっている木彫《レヒティヴァティ/リーフ・ディッシュ》は第9回ミラノ・トリエンナーレで受賞した作品です。ポスターデザイン用に色が付けられています。実際は木目調の表面ですが、これは後述する合板によるものです。しかし、展覧会のポスターで背景を黒にするなんて、とても挑戦的な気がしました。フォークのデザインがパッと目に入りますが、その下に横向きのスプーンが線だけで表現されているところはすごくお洒落だと思いました。

はじめにヴィルカラの異名について書きました。自然の中から題材を探して立体作品に仕上げる、彼は彫刻家と紹介されることもあります。ただ私はヴィルカラを超一流の風景画家ではないかと思います。画家や絵画表現が一番だ、と言うつもりはありません。

私の好きな風景画とは、その絵をじっと見ていると五感が刺激されてくる絵です。音が聞こえてくる、匂いがしてくる、風を感じる、熱さや寒さが伝わってくる、などです。ヴィルカラの立体作品からも同じ感覚を味わえるからです。

リズミック・プライウッド~合板を重ねて模様をつくる

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

合板を重ねて独特の模様をつくった、と言われて「なるほど、それでこんな模様が出せるのか」と思うところもありますが、待てよ、と。

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

この積層合板はリズミック・プライウッドと言い、ヴィルカラが開発したものです。重ねて切って断面を研磨するなどして製作するのでしょうが、思い描く模様をイメージしながら合板を重ねられるなんて、ものすごいセンスです。美味しそうに見える断面になるようにパンに果物を挟んでいく、凄腕のフルーツサンド職人みたいです。

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

ウルティマ・ツーレ ~世界の果て~ 果てることのない手仕事の結晶

ヴィルカラは《ウルティマ・ツーレ》の名前をつけた作品をいくつか作っています。素材も形状も異なるものの、名前は同じです。

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

写真は《ウルティマ・ツーレ》のガラス食器がびっしりと並べられた展示室最後にあるインスタレーションです。現在もイッタラでは販売が続いていますが、年代によってガラスに色味をつけるなど工夫もされています。この展示では薄いピンク色のグラスもいくつか混在していて、学芸員さんがブラックライトを当ててくれて全体が違った表情を見せてくれる作品になりました。

このガラスシリーズは氷が溶けていくところをモチーフにしています。中に本物の氷があっても気付かなそうです。

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て
ギャラリートークの際、ブルーライトを当ててくださり、ピンク色に光っているのは、何年か前の限定品と伺いました。

ヴィルカラはフィンランド南部の港町の生まれですが、ヘルシンキと北部ラップランドを行き来するようになります。ラップランドはいわゆる田舎で、まさにドラマ「北の国から」のように自分で山小屋(別荘)を建てて自然とともに暮らすことを大切にしていました。都会と地方の二拠点生活です。どちらか一方に偏らないセンスが盛り込まれた作品だからこそ、世界中で受け入れられている気がしています。

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て
愛犬との写真がほのぼのして良かった

最後に館内に掲示されていたヴィルカラの言葉からお一つ

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て
すべての型を自分で作る。グラファイトの塊から削り出し、金型の仕上げまで。延々と説明する必要がなく、誤解が生じる心配もない。もしも失敗したら、その原因は自分自身にある。(1980年)

上手くいったかどうかは本人には一目瞭然。失敗したのなら、どこかの過程に間違いの原因がある。それを見つけるべく最初からやり直す。誰かのせいにするのではなく(個人的見解です)。

そして、私がこの言葉の裏側に隠れていると思うのは、失敗の原因を探して再挑戦できる環境、その場所を自らつくり守ることがまた大切なのだと言っているように思いました。

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て
島根県立美術館
会期:2026年6月26日(金) ~ 2026年8月31日(月)

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て